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レインボーフラッグは誰のもの

LGBT セクシュアリティ ジェンダー系の話題

オペしてるけど戸籍変えてない?性同一性障害のフィットネス会員提訴~トランスジェンダーを語る時、多くの人に最低限知っておいて欲しいこと(企業の人にも知って欲しい)

はい。ちょわちょわっす。ひばりんです。

性同一性障害」「トランスジェンダー」をめぐる事件が続いていますね。今回ピックアップする事件はこちらです。

まとめはこちら。

まとめてから数時間後に1万view、二日後には7万viewにコメントが900件近く寄せられました。軽く炎上しましたね。
この事件は、「フィットネスクラブ」において、男性から女性へと性別移行したMtFの利用、その扱いにおいてトラブルが生じたものです。
フィットネスクラブではウェアに着替えたり、サウナや浴場では全裸になりますし、プールでは水着を、ジムの利用ではフィットネスウェアを着用しますね。肌の露出が多く、セックスアピールの強い、刺激的なウェアの着用も出来ます。
想像に容易いのですが、フィットネスクラブとは、言うなれば「ジェンダーが際立つ場」だと言えます。男性は男性らしい逞しさを求めて、女性は女性らしい魅力を求めて、人々は汗を流しています。
そのような場で性同一性障害の人やトランスジェンダーはどう振舞えば良いでしょうか。施設の運営者や、利用者は性同一性障害の人やトランスジェンダーをどう扱い、どう接すれば良いのでしょうか。
この事件で、企業側である「コナミ」はマスコミの取材に対して「デリケートな問題」と回答しています。しかし、LGBTへの理解が進む現在、ただ「デリケートな問題」とトランスジェンダー性同一性障害を含む)の主張を一方的に退けるだけでは済まない時期に来ていると言えます。

シスジェンダートランスジェンダー性同一性障害を含む)がお互いに気持ち良く、共に生活を楽しむためにはどうしたらいいでしょうか。

で、本件ですが、例によってポイントを絞ってひばりちゃんが解説します。

オペをしているけど戸籍を変えてない?

最も大きなポイントだと言えます。
本件では「オペをしているけど戸籍は変えていないMtF」が登場します。
前々回の経産省のトイレの件で使用した図で言えば、赤丸点線で括った位置の人たちですね。

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性別適合手術(SRS)は戸籍変更のための法律、通称「特例法」でも必要条件とされるものですが、行っているにも関わらず、戸籍を変更していない人たちが存在します。そうした人たちが現に存在し、それ故のトラブルが生じている実例を確認出来ることが本件の有意義な点です。
オペをしているのに戸籍を変えない(変えられない)人たちが存在していることは、様々な理由がありますが、ひとつは本件のように「特例法」の「要件」が満たせない場合です。この問題について、新聞の記事では東優子さん(大阪府立大学教授、性科学)がコメントを寄せています。

(いわゆる「特例法」の要件は…)不合理な要件で先進国では異例。当事者には大きな壁になっている。「当たり前の生活」は人それぞれで、自分らしく生きる権利は最大限尊重されるべきだ。その多様さを社会はどう受け止めるべきかを問う提訴になるだろう。

ところで、興味深いことですが、経産省のトイレの件では本人が「オペをしていない」「男性器がある」ことが問題視されました。しかし、本件はオペ済みで「男性器はない」のですが、やはり同様に問題視されています。

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トランスジェンダーにとって「戸籍上の性別」とは何か。

トランスジェンダーにとって「戸籍上の性別」とは一体何でしょうか。
実際のところ、性同一性障害の診断書が下されたり、戸籍が変わっても、トランスジェンダーの見た目、パス度が変化するわけではありません。トランスジェンダーの見た目、パス度は、現在、周囲の人々にも最も影響を与える要素のひとつだと考えられます。見た目からシスジェンダーと全く変わらないのであれば、トランスジェンダーは、人々にトランスジェンダーだと認識されません。逆に言うと、「戸籍」を変えたとしても、その人が「トランスジェンダーに見える」以上は、トランスジェンダーはどうやってもトランスジェンダーとして存在し続けます。そして、多くの場合、戸籍を変えてもトランスジェンダーはやっぱりトランスジェンダーです。

トランスジェンダーの見た目、身体を決定的に変えて行くのは、直接的で物理的な整形外科手術の数々です。また長期のホルモン投与や、オペを繰り返したトランスジェンダーの身体はもはや一般の男女のそれとは別物です。最近ではトランスジェンダーについて「体は男性(女性)」などとはばかることなく講釈を垂れるLGBTの説明があります。確かに生物学的にはそうです。しかし、実態としては全く異なります。一部のFtMの身体能力は一般の男性と同等かそれに勝ると言えますし、同様にMtFは一般の男性が女性としてセックスしても十分満足出来る身体を持っています。しかし、身体の物理的な変化には個人差がありますし、「限界」がありますし、全てのトランスジェンダーたちに投薬、オペを強要するのは人道上問題があるでしょう。

トランスジェンダー性同一性障害(本人がそう自称しているか、どう考えているかはともかく)のMtFで、戸籍上は男性のままとされる有名人に中村中さん、はるな愛さんなどがあげられます。

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中村中 - Wikipedia

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はるな愛「女性になったけど、大西賢示のまま戸籍は男のままでいたいと思った」 〈週刊朝日〉|dot.ドット 朝日新聞出版

性自認が女性なら戸籍も女性にしたくないの?と思うでしょう。おそらく、この方たちはある意思に基づいて戸籍をそのままにしていると考えられます。不思議に思うでしょうか。でもそれは、性別を変える人たちへの偏見、誤解なのです。

本来「トランスジェンダー」は様々な性指向性と性自認を持った人たちの集合です。性同一性障害の診断を受ける人たちはその一部の人たちです。
そこで「トランスジェンダー性自認」は必ずしも「戸籍上」の性別とは一致しません。それを望む人もいれば、望まない人もいます。トランスの過程にある人もいますし、それに戸籍変更を望んでいるが、条件を一部クリア出来ないため変更が出来ない人もいる、ということです。

本件のような事件があると、本人の意図はどうであれ、戸籍を変更せず、しかし望む性別で受け入れられているトランスジェンダーの存在、活動、社会的な役割は非常に大きいと言えます。
トランスジェンダー」にとっては、生物学的な身体の性別も、薬理的、外科的に適合、変更された身体の性別も、性自認も、そして戸籍上の性別も「別々」のものなのですね。それらは一致しているのでも、不一致なのでもなく「様々なパターンが存在する」ということだし、様々なパターンの存在を尊重することがトランスジェンダーの理解へと繋がります。

障壁となる「戸籍上の性別」

トランスジェンダーが利用することで「他の利用客が不快に思う」という意見が、まとめのコメント欄にもうんざりするほど寄せられています。「迷惑だし、気持ち悪いからあっち行って下さい」と言うことです。
「あのクラブ、オカマがいるのよね」と噂になって利用客が減っては企業としても、たまったものではないでしょう。オカマと一緒にシャワーを使い、プールに入らねばならないとしたらどうですか? 女性のみならず、男性も不快でしょう。
そこで「戸籍」が変更してあれば、例え「不快だ」とクレームを上げる利用客がいたとしても、「あのお客様は戸籍上は女性でございます」と言えば済みますね。
企業、運営者としてはクレーム処理のために事務マニュアルで参照出来るだけの「明確な基準」が欲しいところです。
それ以上の問題ではないと考えたいところですが、しかしどうでしょう。「気持ち悪い」という評価は「戸籍」によるものではなく、容姿や所作を決定する文化的基準の問題ですから、本心では戸籍上の性別に関わらず、やっぱり「トランスジェンダーの人には使って欲しくない」と企業の担当者、利用客を含め、多くの人々は、考えているかもしれません。
「戸籍」を変えたとしてもトランスジェンダーの容姿が変わるわけではありませんから、不快に思う人は、トランスジェンダーの「戸籍上の性別」に関わりなく「不快なものは不快だ」と強く感じ続けるはずです。
ここでは「戸籍上の性別」がトランスジェンダーを人々から遠ざけ、区別し、容易に近づけなくするための一種の「障壁」として機能していることが判ります。
企業側が利潤追求のために行う意思決定と論理、人々が「気持ちの悪いもの」に対して抱く危機感や反感はもっともな話です。が、これらを前提にした上で、それでもやはり問題だと言えそうな点を次に述べておきます。

「性別移行」はトランスジェンダーの権利

正直な話「どうしてもうちではムリ、ごめん!」とトランスジェンダーに使用をお断りするのは、現状、構わない、仕方ないかなと思います。大きな問題を感じたのは、コナミの対応が単にトランスジェンダーに施設の利用を許可しないだけでなく、トランスジェンダーに対する「性別移行」の妨げを行っている、障害となっているという点です。

本件の申立人は「障害の診断書と手術の承諾書を支店長に」提出していますが、これに対してコナミは「戸籍上の性別に準じた施設利用」に同意する書面への署名、押印を迫っています。
お断りするにしても、同意書への署名、押印まで必要だったでしょうか。先述しましたが、様々な性指向性、性自認を持つトランスジェンダーにとって「戸籍上の性別」というのは、「自己」を構成する一要素でしかありません。
同意書はMtFに「私は戸籍上は男性ですから男性として振る舞うことを誓います」といった宣誓にサインを強制するようなものです。これは果たして人道的にどうでしょうか。許されることでしょうか。こんなことまでする必要があるのでしょうか。
申立人は「日常生活を女性として送る一方、クラブに行く時は化粧を落とし、男性の服装で通って」いたそうです。これはトランスジェンダーに「トランスを我慢させている状態」です。このような状態がなければ、本人の「性別移行」はもっと早くに完了していたかもしれません。2年要するところが1年に、1年が半年になっていたかもしれません。
「性別移行」にはコスト(時間、苦痛も含む)がかかります。それが阻害され、コストをかけた行為に一定のリターンがないわけですから、「トランスジェンダーとしては」社会的な不利益を被っている状態です。
「性別移行」はトランスジェンダーにとってアイデンティティの「中核」にある問題です。トランスジェンダーにとって最大の苦痛は「性別移行が出来ない」、その「自由がない」ことです。思うように「性別移行」が出来なければ、どんなトランスジェンダーも苦しみます。「性別移行」はトランスジェンダーの最も「基本的な権利」だと言えます。

どうしたらいいか? 最低限守って欲しいこと

トランスジェンダーに施設の利用をお断りするのは構いません。ですが、その際に

  1. トランスジェンダーの生き方を否定しないこと
  2. 人格や人としての尊厳を棄損する行いをしないこと
  3. トランスジェンダーの「性別移行」の妨げをしないこと

です。これが企業に求められる基本的な姿勢でしょう。
トランスジェンダーには様々な状態の人がいますね。どうしても断りたい時はあるでしょう。だとしてもです。「気持ち悪い」からと言って、トランスジェンダーを傷つけたり、痛めつけて良い理由にはなりません。トランスジェンダーの「性別移行」を妨害することも出来ません。これは断るにしても「最低限、守って欲しい」ことです。

本当ならトランスジェンダーに施設の利用を許可して欲しいです。検討を行うにあたって、戸籍上の性別だけでなく、生活実態、診断、オペの有無など「性別移行」に伴うはずの「客観的事実」も考慮に入れてあげて下さい。「性別移行の実態」を考慮に入れれば、悪戯や痴漢とは区別出来ます。トランスジェンダーに「性別移行の実態」があることは、施設の使用を許可する根拠に成り得るはずです。例えば他の利用客からクレームが生じ、訴えられたとしても当人に「性別移行の実態」があることは企業の有利に働くでしょう。最近の性同一性障害トランスジェンダーをめぐる訴訟で企業は対応に迫られるでしょう。しかし、こうした訴訟にトランスジェンダーが勝ち続ければ、結果的には企業が逆にトランスジェンダーに対する顧客からのクレームに強くなるはずです。

【企業側へ…トラブルにむけて推奨される対処】

①まずよく話す

多くの場合、トランスジェンダーは自分の容姿やパス度についてよく理解しているものです。すべての人がそうだとは言えませんが、経験を積んだトランスジェンダーはその可能性が高いです。まずは当人と腹を割ってよく話して下さい。綺麗ごとじゃない部分も含めて率直に、です。トランスジェンダーに訴えられると、LGBTへの関心が高まっている世論に対して、勝っても負けても企業の印象は良くないです。

②オフェンシブな対応をしない

お断りする場合、トランスジェンダーの生き方を否定しないこと、侮辱、侮蔑にあたる行為、人格の否定、人としての尊厳を棄損する行いをしないことです。相手を痛めつけてやろうなどとオフェンシブな対応を絶対しないことです。例えばアイデンティティを傷つける同意書にサインを求めるなど大NGです。そんなことをして相手が本気になったら、企業の方が不利です。書面などで迫れば、逆に証拠書類に取られてしまいますね。基本的に企業としてはディフェンスの対応しかあり得ないと考えて下さい。

③誠意を見せる

ディフェンシブな対応とは、ちゃんと誠意を見せることです。頭を下げ続け、例えば、お断りするにしても、他で使える施設を紹介し、入会金を持つとか、あるいは今回のように既に施設の利用を行っている場合、かかった費用を全て返却してしまうとか、相手を傷つけないで、むしろ進んで引き下がってもらえるような状況を作ることです。提訴されたら企業側も費用がかかりますし、それを考えると、相手を傷つけないためにかけるコストは決して損失ではありません。

④事務マニュアルを作る

「性別移行の実態」を考慮に入れた事務マニュアルを作って下さい。「戸籍」があると確かに他の利用者からクレームが生じた際、企業側にとっては大きな後ろ盾となります。しかし、トランスジェンダーの生活実態は様々です。「戸籍」だけでなく、診断、オペの有無、「性別移行」の生活実態はあるか、これらを証明出来る第三者、親族や専門家を交えた面談を行えるか、など一定の基準を満たす「手順」を作ります。そうすれば、他の利用客からクレームが生じても「ある基準を満たしたら弊社ではご利用して頂いております。どうかご理解下さい」で十分な説明となります。訴訟されても、手続きをちゃんと経た判断であることは企業の有利となります。

「気持ち悪い」とは何か

ところで、記事にある画像で、同意書を持つ手のネイルに目が止まりました。これは当人でしょうか。だとしたら歳のわりには可愛い過ぎるかもしれません。
でもこれを見て「気持ち悪いものを見せられた。自分の権利が侵害された」と感じる人がいるとしたら、その人はどんな人でしょうか。

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人から「気持ち悪い」と言われないために、私自身、たくさん努力して来ました。痛いことや嫌なことを我慢して来ました。「気持ち悪い」上にこの先、歳を取り、もっと醜くなっていくことが本当に怖いです。
「気持ち悪い」と言われないようにすることと「性別移行」は私にとってある時期重なっていました。これは私だけでないでしょう。
トランスジェンダーにとって「気持ち悪い」という評価は「死活問題」です。
本件のように自分の行動がどんどん制限を受けます。それは「デリケートな問題」とされ、職場で個室に隔離されたり、休憩室やトイレを満足に使わせてもらえません。仕事があるならそれでもマシなのかもしれません。
親や兄弟からも「気持ち悪い」と縁を切られます。
トランスジェンダーにとって「気持ち悪い」というのはつまり「可視化されている」ということです。どこへ行っても逃げ場はありません。どこへ行ってもトランスジェンダーは浮いています。
ただ存在しているだけで、人の権利を侵害したと言われます。「気持ち悪い」からです。

しかし、「気持ち悪い」とは一体どういうことなのでしょうか?

みなさんは「気持ち悪い」の「正体」を考えたことがありますか?

それについて毎日毎日考え、悩み抜き、十数年を過ごす日々がどんなものであるか、想像する気になれますか。
私たちトランスジェンダーが「気持ち悪い」のはよく承知しています。しかし、なぜ私たちは「気持ち悪い」存在なのでしょうか。

ここにひとつのCMがあります。

"女の子らしく"走ってみて|生理用品ブランド ウィスパー(アメリカ)

このCMは特にトランスジェンダーを扱ったものではありませんが、冒頭シーンで「女のらしく走ってみて」と言われた大人たちの反応をご覧になって下さい。続いて同じ質問を子供にしています。最後まで見て、このCMが何を伝えようとしていたか、多くの人がはっとすることでしょう。

トランスジェンダー、とりわけMtFは確かに「気持ち悪い」です。時々、MtFはあり得ないような女性の恰好をしたり、振舞いをしていますね。

でも私に言わせると、トランスジェンダーの人たちはただシスジェンダーの人たちの「真似事」をしているだけです。
ある社会に「トランスジェンダーが存在する」ということは、その社会に「性別」があり、性別に関わる文化、規範が存在することを意味します。「トランスジェンダーを目撃する」ことは、例えば社会が持つ性別の文化、ルール、価値観を裏側から観察する(目撃した)ようなものです。トランスジェンダーとは、つまり「性別」の「望遠鏡」であり「顕微鏡」です。
トランスジェンダーを見てシスジェンダーの人がびっくりする」のは、それまで見慣れていた性別文化を別の角度から初めて見て、その歪さにびっくりする、ようなものです。
トランスジェンダーが気持ち悪い」というのは、そのまま私たちのジェンダー規範、性別文化、風習、自らの「価値観」が「気持ち悪い」と言っているのに実は等しいのです。

 

ひばりちゃんでした。

 

※記事の転載、取材、講演引き受けます。hibari.mizuno@gmail.com

※著名人や識者、一定の社会的責任が問われる人物のツイは晒しています。本人の不利益にならないこと、責任が問われるため。一般の人、当事者のツイはモザイクをかけています。個人への批判が目的でないからです。

※今回BARAさんのみ生で上げていますが、不利益にならないのでそのまま上げました。活動されてる方のようです。新聞記事や書籍の引用、運動の場など丹念にツイートされてます。社会問題に興味のある方はフォローするなり、リストに入れて購読すると良いアカウントです。